魔王「やったーせかいをほろぼしたぞー」一夜目

一夜目

魔王「やったーせかいをほろぼしたぞー」
勇者「おわー」

魔王「やったーやったー」
勇者「なんちゅーことを」
魔王「やったーやったー」

勇者「ゆるさんぞ魔王」
魔王「なんだなんだ」
勇者「おまえを倒す」
魔王「たおしてどうする?」
勇者「ええっ」

勇者「そりゃあ、倒すのが使命だから」
魔王「へいへい、よくかんがえろよ」
勇者「なにをだろう」
魔王「おまえはもう一人しかいないんだぞ、人類最後の人間だ」
勇者「口惜しくもその通りだ。だがそれは闘いを止める理由にはならない。最後の一人だからこそ、お前を倒さねばならんのだ」
魔王「だからたおしてどーするわけよ」
勇者「死者のためだ」
魔王「おまえは生きてるのに」

勇者「生きているからこそ、俺以外のだれが死者を弔うのだ」
魔王「だれでもいーわな。それより建設的な話をしよう」
勇者「はなし?」

魔王「かんたんに、おまえがわたしのてしたになったら、おまえを生かしておいてやるよ」
勇者「ははは」
魔王「わらうな」

勇者「笑わせるな」
魔王「わらわないできいてほしかった」
勇者「おれが敵にくみするとでもおもったのか?」
魔王「わたしはおまえのてきじゃない」
勇者「いいやおまえはおれの敵だ」
魔王「どうしてまた」
勇者「はじめから敵だったろう」
魔王「はじめは敵だっただけだろう」

勇者「今も敵だ」
魔王「今は敵じゃない。なぁ、なぁ、勇者よ。なあ勇者よ。聞こう、聞こう、ならば聞こう。お前はいったい誰のため、わたしの敵になったのだ?」
勇者「もちろん、みんなのためだ」
魔王「みんなはどこにいったの?」
勇者「しんだよ」

魔王「だれのためでもないのに、おまえは人をころすの?」
勇者「ひとじゃないだろ」
魔王「そんなことないよ」
勇者「どうしてまた」

魔王「まず、世界には人間がたくさんいたろ」
勇者「おう」
魔王「そして、そのほかの魔物がいたろ」
勇者「おう」
魔王「人間は、人間以外の敵を魔と呼んだけど、そりゃ多数派だからできるんだよ」
勇者「たすうは?」

魔王「にんげんは、じぶんたちの数が多いからじぶんたちは正しくて、それ以外は悪だと思っているんだろ」
勇者「おまえらは悪いやつだろ」
魔王「そんなの、生存競争さ」
勇者「せいぞんきょうそう?」

魔王「鳥は、生きるために虫を食い殺すだろ?わたしたちも、生きるために人間を殺すのさ。ゆかいに生きるためにね」
勇者「われわれは虫じゃない」
魔王「われわれだって虫じゃなかった」

勇者「でも、鳥は虫を食べ尽くしたりしないし、いたずらに殺したりもしない」
魔王「そんなことないさ。鳥は虫を食べ尽くして、食事がなくなって自滅もするし、遊び半分に殺しもする」
勇者「へー」

勇者「でも、お前たちと鳥じゃ事情が違う。お前たちは、人間を殺さなくたって生きていけるじゃないか」
魔王「そんなことないさ。植物にはね、自分のいきる土地を広げるために、似たような植物を殺してしまうやつらもいる。遠い土地から持ち帰った植物が、いつのまにかじぶんたちの国に生えていた植物とすりかわるなんて、ざらにあることさ」
勇者「へー」

勇者「魔王はあたまがいいな」
魔王「そうだよ。だからね、わたしたちがおまえたちをころしたり、おかしたり、うばうのは、生存競争、食物連鎖、ただあるようにあることのひとつなのさ。植物が小さな芽をつけることに、とりがおおぞらを飛ぶことに、なんの悪があるのかな?」
勇者「とりはいいなー、うまいし」
魔王「そうかー」

魔王「にんげんがひかり、われわれがやみのじだいは終わったのだ。今や人間が間の人であり、われわれ魔の者がひとなのだ。わかるかな、この世界で、異常なのはおまえだよ。お前だけなのだよ」
勇者「わからん」
魔王「いまや、かいぶつはおまえなのさ」

勇者「かいぶつ」
魔王「そうだよ。われらがどうほうをさつりくしたかいぶつだ。誰のためでもなく、理由すら失って、わたしを殺そうとするばけものがおまえだよ」
勇者「ばけもの」
魔王「それでも、わたしはおまえをひとにしてやれる。変わった姿をしているやつなんていくらでもいるさ」
勇者「おれそんなにへんな顔か」
魔王「かなり」

勇者「かなり……」
魔王「まほうを使うやつだって、岩をまっぷたつに切れるやつだって、ここじゃそう珍しくない。おまえはきっと、わたしたちといっしょにいる方がよっぽどらしいんじゃないかな?」
勇者「かなり……」
魔王「きいてた?」

魔王「にんげんはみんなへんなかおだよ」
勇者「なぐさめになってない」
魔王「へんなかおでもだいじょうぶだよ」
勇者「なにが大丈夫なんだ」
魔王「わたしはだいじょうぶだよ」
勇者「だめだろ」

魔王「だめか……」
勇者「おれは甘言には屈しないぞ」
魔王「でもおまえ、一人でどうするの?わたしを殺したら、おまえにみんなが襲いかかるよ」
勇者「倒すよ」
魔王「でも、食事もできないくらいだよ。なんせみんな敵だよ」
勇者「倒すよ」

勇者「寝ても、覚めても、更けても、明けても、ひとつあゆみをすすめるごとに、ひとつといきをつくごとに、倒して、倒して、倒していく」
魔王「でも、本当にみんな敵なんだよ。にんげんはいないんだよ。だれひとり、おまえをお前としてみないんだよ」
勇者「そうだ」
魔王「だれもおまえをほめないよ」
勇者「だろうな」

魔王「おまえはきっと、なんじゅっぴきのハエにたかられる林檎のように、油虫のびっしりついた菜種のように、魔物という魔物にたかられて、血まみれで這いながら殺されるよ。殴られて殴られて、血袋のように小さくて腫れ上がったものになるんだよ」
勇者「そうとはかぎらない」
魔王「そうじゃなくてかりに、おまえがみんなをころしてころしてころしつくしたとしたら、結局おまえは一人じゃないか。たったひとりで、だれもいない世界で、すべてが死に絶えてるんだぞ。お前はそれでいいのか?」
勇者「うん」

勇者「それでいい」
魔王「それって、それって」
勇者「なに?」
魔王「それって、魔王じゃない?」
勇者「そうなのか」
魔王「そうだよ」

魔王「こわい」
勇者「おまえほどじゃない」
魔王「それはないわ」

魔王「それより建設的な話をしよう」
勇者「なかまにはならんっつーに」
魔王「でも、それってにんげんのためじゃないぜ」
勇者「なんだと」

魔王「おまえは世界中でひとりっきりになるより、にんげんをふやすべきなんだよ」
勇者「ふえるもなにも俺だけだし」
魔王「わたしがいるじゃないか」
勇者「ん?」

勇者「あいてがいないからしょうがないだろ。それともにんげんを残しているのか」
魔王「にんげんはいないけど、おまえにはわたしがいるよ」
勇者「お前にんげんじゃないだろ」
魔王「こどもがうまれたらはんぶんはにんげんだよ」
勇者「なるほど」

勇者「でもお前おとこでは?」
魔王「どうなのだろう」
勇者「そしておれもおとこ」
魔王「そうだったのか!」


魔王「おまえおとこなの」
勇者「みりゃわかるだろ」
魔王「へんなかおだからわからないよ」
勇者「へんな……」
魔王「おまえには鳥の顔の違いがわかるか」
勇者「あっ、わからない」

魔王「たぶん雌雄がいっしょでもどうにかなるよ」
勇者「なってたまるか」
魔王「ならないと困るのはおまえだろ、にんげんはいないんだよ」
勇者「あんたが殺したんだ」
魔王「まあまあ」

魔王「わたしはつよいやつのこどもがほしい」
勇者「そうなのか」
魔王「おまえはつよい。とてもつよい。わたしはおまえのことがほしい」
勇者「そ、そうなの」
魔王「そうなの」

魔王「でもなんだかおまえはわたしよりすこしちいさいし」
勇者「うるさい」
魔王「しょうがないね、もうすこしおおきくなるまでまってるよ。お前の気もかわるかもしれないし」
勇者「おれのき?」
魔王「おまえとわたしのあいだに子供をつくるというはなしのき」
勇者「帰る」
魔王「家無いだろ」

勇者「そうだった……」
魔王「うちにとまっていいよ」
勇者「すまん」
魔王「いいよいいよ、長旅だったろ」
勇者「うんうん」

魔王「下の階に部屋があるから」
勇者「ありがたい」
魔王「…………」
勇者「てくてく」

勇者「すげーでかいへやだ」
勇者「すやすや」
魔王「……」
勇者「ぐーぐー」
魔王「おきろ」
勇者「いたい!」

魔王「そういうのやめてよ!」
勇者「なんのことだ!」
魔王「ひとんちでむぼうびに寝ないで!」
勇者「でもうちないし」
魔王「なんかあるでしょ!なんか!」
勇者「なにもないよ」

魔王「せめて警戒して」
勇者「だったら今からお前をたおす」
魔王「いちいち極端だな」
勇者「いいからはやくしろ。首を撥ね飛ばしてやる」
魔王「うちで寝る気だったのにこの言い様」

魔王「きみってじつに失礼だ」
勇者「おまえにいわれたくない」
魔王「わたしは君にできるかぎり敬意をはらったつもりだよ。人間がいなくならないように、この身をささげてもいいといったし、宿をかすともいったし、無警戒に眠ってはいけないともいったよ」
勇者「おお、そうか」
魔王「わたしっていいやつだろ」
勇者「いわれてみればそうだな」

勇者「それはすまないことをした」
魔王「そうとも」
勇者「では俺は野宿でもしてくる」
魔王「そうはいかないよ。うちのベッドでゆっくりやすんでいきなよ」
勇者「ますますいいやつだな」

勇者「それじゃあおやすみなさい」
魔王「おやすみー」
勇者「…………」
魔王「…………」
勇者「ねえねえ」
魔王「なあに?」
勇者「なんで横に寝てるの?」
魔王「蹴らないで」

魔王「いたい!」
勇者「ねぇなんで横に寝てるの?なんで?」
魔王「蹴るか聞くかどっちかにして!」
勇者「…………」
魔王「蹴らないで」

魔王「ふたりの距離をちかづけようとおもって」
勇者「いみがわからない」
魔王「ひとりねはあぶないから護衛しようとおもって」
勇者「それはかたじけない」

勇者「しかし魔王とにんげんが共寝するのはなんかよくないぞ」
魔王「なんかなのか」
勇者「おんなじふとんはよくない」
魔王「じゃあふとんを二枚にしよう」
魔王「いたい!」

魔王「ベッドも別にするよ」
ベッド「ズルズル」
勇者「なんでベッドちかづけてくるの」
魔王「ふたりの距離をちかづけようとおもって」
勇者「いみがわからない」

魔王「じゃあベッドも離すよ」
勇者「そうして」
魔王「でんきけすね」
勇者「おねがいします」

魔王「おやすみなさい」
勇者「おやすみなさい」

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